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Etojitophoto

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追悼、keepの消しゴム

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けれどあなたが喜びそうなことは何ひとつ書けない

追悼、keepの消しゴム

けれどあなたが喜びそうなことは何ひとつ書けない

 「keep」の消しゴムが全国の売り場から近々姿を消すことになった。製造元である文房具の製造・卸売業者、株式会社ホシヤが今年七月に事業を停止し、十月に破産手続き開始の決定を受けたのである。

 keepは十代のころに使っていた消しゴムだが、そういえば最近文房具売り場に行っても見かけなくなった。ほとんどそんなメーカーがあったことすら忘れていた。

 これは宮城県の加美町に古くからある文房具店で買ったもので、お店に入っていろいろ見ていたら、消しゴムの売り場にある懐かしのデザインが目に飛び込んできて思わず手にとってしまった。それが十月の中頃のことで、そのときはこの消しゴムをつくっている会社が倒産したことを知らなかったから、とりあえず小さいのを一個だけ買った。100円では何も買えなくなった今日において、たったの70円である。後からそのニュースを知って、もう二、三個買っておけばよかったと後悔したが、もう遅い。残りは数個しかなかった在庫品限りのものだろうし、今ごろは売り切れているにちがいない。

 この消しゴムは子供ウケしなさそうな無骨なデザインで、見た目からしてプロ仕様というか、ストイックな職人気質を感じる。そういうところは当時、同じように流行った三菱のボールペン「BOXY」にも通じるところがある。デザインに対する時代の流行り廃りというのは、一回ぐるっと回って世代が変われば、またその良さに還ってくるところである。シティポップとかアナログレコードとかもそうで、リアルタイムで経験していない人からすれば、古いも新しいもない。いいかそうでないかだけで見てくれる。だからどれくらい長く生き延びるかで風向きが変わったりするから、ものづくりという仕事はとにかくやめないことが大事なのである。

 消し感は抜群で、と言いたいところだが、あまりに昔のことなので、正直そのへんの感じは覚えていない。しかも、今回買ったもので試そうにも、使ったらこれが最後なので、もったいなくてそれもできない。つくづくもう一個買っておけばよかったと思う。

 写真にあるもう一つの蛍光オレンジの消しゴムは、ステッドラーのものだ。これも子どものころに、文具専門店にあったのを見つけて、日本の消しゴムにはない、見た目のオシャレさだけで選んだ記憶がある。それで何もわからずに使ってみたものの、どうも鉛筆の字がぜんぜん消えない。紙面が薄黒くなって、その汚れが広がるだけである。これだったら輪ゴムでこすったのと変わらない。だからもう使わなくなって、机の引き出しに放り込んでおいた。

 このあいだ、実家の部屋を掃除しているときにこの消しゴムが出てきたので、また試しに使ってみたが、あいかわらず黒鉛のシミをつくるだけである。それでネットで調べてみたら、ようやくその理由がわかった。これはLUMOPLAST(ルモプラスト)というステッドラーが販売する油性ペン専用の消しゴムなのだそうだ。フィルムとかガラスとか、そういうツルツルした表面に書いたインクを消すための消しゴムなのである。どうりで。ステッドラーのホームページを見てもこの商品は掲載されていないので、本国ではどうか知らないが、おそらくは廃番商品だと思われる。わたしのようにふつうの消しゴムだと思って買った人々から、なんにも消えないじゃないかと苦情が殺到したのだろうか。

 それにしてもドイツをはじめとした舶来の文房具は、いや正確にはそのパッケージデザインは、シンプルで不変性があって、浮わついていないから時代を選ばない。日本語とアルファベットという根本の文字デザインがちがうというのも大きいのだろうが、MONOとかRADARとか正面に日本語を使っていない日本製の消しゴムともちょっと感じがちがう。どちらが好きとかいいとかではなくて、人に訴えかけずに、自分は自分だと思っているような消しゴムなりの気骨を感じる。そして変わらない。変わらないから安心できる。そういう意味では、MONOもRADARも、そしてkeepの消しゴムも昔からのイメージを保っていて、一年後にはガラッと商品が入れ替わるこのご時世、がんばっている(がんばっていた…)ほうだと思う。

 消せるペン(つまりフリクションていうやつ)は使うな、何でもかんでも消せないペンで書けというのが会社のなかでの常識だった。それは社会人、企業人としてのコンプライアンスでもあり、責任を明確にするという意味合いもあるのだろうが、いまそういう場所から離れて振り返ってみると、そんなにたいそうなことかなとも思う。方法や手段が重要じゃないのは誰もがわかっているけれど、そこまで信用できないというのが人間の集まりなわけで、あとはどうやって自分を守るか、いやな言葉でいうと「保身」ということなんだろうか。いや感覚だけでこういうことを言うと、その世界の人たちから鼻で笑われるのが目に見えている。けれどなんというか、消してまた一からやり直せるという逃げ道は、どこかに残しておいても悪くはないと思う。どんな仕事にせよ、そのほうが縮こまらなくていいし、神経をすり減らさない。それと何より人にはそれほどの永続性や不変性はないと思う。わたしの書いているものを見ればよくわかる。

 最近、確実に字が書けなくなっていることに気がついた。とにかく漢字が出てこない。年齢のせいかなとも思うが、それだけではない。わたしはだいたい下書きをまずノートに手書きしてから、それをもとにキーボードで打ち込んでいく。だから下案をつくるときに辞書をひく頻度は人よりかなり多いほうだと思う。時間がかかるし、画面で変換してくれる文字のほうがはるかに効率がいいのはわかるが、言葉を扱う人間が文字と対話する手間を惜しんだらいいものは書けないような気がする。それでも身に付かないのは、決めにいくときはパソコンで打って字を書いているわけで、その気合の入り方が下書きのときとは確実にちがうからだ。受験勉強のときに暗記したことを何も見ずにノートに書いて、それで頭の中に定着させようとしたのも、やっぱり一生懸命に書くという行為を無自覚にも馬鹿にしていなかったからだと思う。

 調べて書いてまた消してという作業を手を動かしながら真剣にやる。意識して書く。そしてよく字を間違える。だから消してまた書き直す。わたしが消しゴムのお世話になる日々は、これからもまだまだつづく。

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公開日:

2026/10/13

塵野三月 Mitsuki Jinno

当サイトの文章とデザインを担当するインドア派。

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